紀伊山地にもニホンザルは多く、国道168号線や169号線を車で走っているとよく見かける。大塔町には「猿谷」という地名もあり、ダム周辺は今なおサルが多い。川上村の井光川に入って釣りに夢中になっていると、いつの間にかサルの群れに遭遇し、お互い一触即発物々しい緊張感に包まれたこともあった。こうして出くわすサルたちも群れにはちがいないが、餌付けされた高崎山の階級社会的サル集団とは少し様子が違う。十数頭の小集団で、一見してボスザルと思われるようなオスの存在や階級社会的な秩序行動は見られず、群れでいることの危険回避や安心感ということで群れている母系集団のような気がする。
オナガザル科に属し、マントヒヒやマンドリルも同じ科であるが、アカゲザルやタイワンザルが同じマカク属で最も近縁である。ニホンザルは固有種であり、本州・四国・九州に分布する基亜種のホンドザルと屋久島に生息する亜種のヤクシマザルとに分かれる。熱帯地方に多いサル目のなかではヒトを除いて最も北に分布しており、とりわけ下北半島のニホンザルは、積雪と厳寒に耐えて生きる世界的にも珍しい北限分布個体群で、その生息地と共に1970年国の天然記念物の指定を受けている。
一方、飼われていたアカゲザルが房総半島で、またタイワンザルが和歌山県で野生化し、いずれもニホンザルとの交雑種が確認され、遺伝子汚染という新たな問題が発生してる。
複数のオスとメス、その子ザルとで十数頭から百数十頭の群れを作り集団で暮らす。また、群れを離れ単独で暮らすオスのハナレザルもいる。ニホンザルの群れは、メスが自分の生まれた群れに留まり続け、
オスが自分の出自の群れから移籍する母系社会である。交尾期は9〜12月で、妊娠期間は約173日、5月出産が最も多い。一産一子だが、交尾が乱交的なので父親は不明、子育ては母親がする。
春・夏は、新芽・若葉、秋には果実を好んで食べる。昆虫やキノコも好物で、積雪期にはササや冬芽、樹皮も採食の対象となる。
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