国道168号線を十津川方面に車で走っていると、ある時期から頻繁に交通事故に
遭遇してしまったタヌキを見かけるようになる。タヌキの出産時期は5〜6月初めにかけて、さらに7月初め頃には親に連れられて餌場を回り、9〜10月には早くも独立し始める。
こうしたサイクルを考えると、どうやらよちよち歩きの子ダヌキを連れ歩き始めた頃に、事故が多いのかもしれない。
タヌキと言えば、「たぬきのため糞」や「たぬき寝入り」「たぬきおやじ」といった言葉がある。タヌキには、決まった場所に糞をする習性があり、人間のものと見間違えるようなものが高く山積みとなっているが、一種のマーキングだと考えられる。また、天敵を欺くための擬死も知られており、「ため糞」や「たぬき寝入り」はタヌキの習性の一端をあらわしたものである。さて、年老いた食わせ者・くせ者、また徳川家康のような人物を評して「たぬきおやじ」と言うが、タヌキに人をくうような賢さはなく、
こちらはどうやら、キツネ同様「化かす」という逸話が一人歩きしたのだろう。
タヌキには、腹の出たずんぐりしたイメージがあるが、長い冬毛によるところも大きく、夏毛のタヌキはスリムである。私が小・中学生の頃は、タヌキやキツネの毛皮で作ったマフラーを身につけている人も多かった。そう言えば、スリムな顔立ちで、口がクリップ状になっていて尻尾のところを挟む仕掛けになっていた。とりわけ、タヌキのものは美しい毛並みだったと記憶しているが、今はすっかり見られなくなった
。
日本のみならず、朝鮮半島から中国、ロシアなど、ユーラシア大陸東部に分布域を広げる。その分亜種も多く、日本では、北海道のエゾタヌキと本州以南のホンドタヌキの2亜種が生息する。頭胴長50〜60cmで、ほぼ同じ大きさのアナグマに間違われることも多いが、タヌキはイヌ科、アナグマはイタチ科で、アナグマの足跡は5本指に長い爪跡と区別しやすい。
単独もしくはペアで生活し、ペアは相手が死ぬまで解消されない。2〜3月に交尾し、70日余りの妊娠期間の後、4〜5頭の子を産む。キツネと違って、父親は子煩悩なタヌキオヤジ、積極的に育児に参加する。
カエル、鳥類、魚類、昆虫等の小動物のほか、果実なども食べ雑食性である。ネズミも捕らえることができれば食べるが、キツネのような俊敏な狩猟能力は乏しい。その分、ミミズやムカデなども口にする。民家近くで残飯を漁ることもあり、こうした食性が、住宅地付近でも生息できる適応能力の1つである。
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