約4500首の万葉集の中から、次の2首が目にとまり、ずっと私の心の片隅に引っかかっている。
当時、話題となっていた万葉人のファッションとは、いかほどのものなのか?
橡の 衣は人皆 事なしと 言ひし時より 着欲しく思ほゆ (1311)
橡の 解き洗ひ衣の あやしくも ことに着欲しき この夕かも (1314)
橡(つるばみ)とはクヌギ(ブナ科)のことで、したがって「橡の衣」とは「クヌギで染めた衣」ということになる。
これらの歌は比喩歌でもあるから、「橡の衣」は女性をさしているとも言えるのだが、それでも「橡の衣」が当時の若者の流行であったことは十分推測できる。
そこで、クヌギを使った草木染で、どんな万葉色が再現できるのかどうしても再現してみたくなった。
工程は以下の通りである。
【準備物】
クヌギのどんぐり(堅果)とぼうし(殻斗)、ミョウバン
【染色工程】
@ クヌギの堅果と殻斗を十分煮る。(殻斗がよくアクを出すのでたくさん集めておきたい。)
A その後、弱火にしながら@のなべの中に約20分ほど綿のシャツを浸す。
B Aの工程後水洗いをしたシャツを、今度はミョウバンを溶かして作った媒染液(水1ℓあたりミョウバン1〜5g)に約20分浸す。
(※媒染液は色を定着させるためのもの。)
C Bの工程後水洗いをしたシャツを、再び@のなべに浸し、以下同じ工程を繰り返す。気に入った色合いになるまでくり返す。
さあ、どうでしょうか万葉人のファッション・センス。(※上写真)
現在の感覚からすれば、土色したこのアースカラーにひきつけられる人は少ないと思う。
今回2枚のシャツを染めて庭に干していたのだが、その周辺には不思議と異空間が漂うのはなんだろう。
そして、万葉集で歌われた海石榴市(つばいち)に、この色の衣を着ている人々が集っている様子をイメージしてみた。
私の古代実験の第一歩だが、さて今度はこのシャツをどこでどう使おうか、新たなストーリーが始まりそうだ。
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