Life in the wood
                          くりんとの森の生活

      | Home | 森の生活 | 森の料理 |
  橡の実を食べる

  2015年の秋、奈良県下はどんぐりをはじめ堅果の成り年だったと思う。前鬼の宿坊から釈迦ヶ岳をめざして登り始めると、やがてトチノキの大木が沢沿いに群生している。その真っ只中を通る登山道には、足の踏み場もないほど橡の実が落ちていた。簡単に食べられないと分かっていても、このような大きな実を拾いたくなるのは私だけだろうか。縄文人の採集本能というDNAは、未だ私にはしっかり受け継がれているようだ。
 橡の実には、並のどんぐり以上にタンニンとサポニンが含まれており、これらを取り出して食することができるようになるまではかなりの労力が必要となる。ただ、この堅果の圧倒的な大きさ・重量にデンプンがぎっしり詰まっているとすれば、縄文人も決して手をこまねいたわけではないだろう。その昔、飢饉のときの救荒食物として、また稲作が困難な山地での補助食として重宝され、トチノキの伐採は極力控えられてきたという話が各地に伝わる。
 一方で、タンニンやサポニンなどによるエグミは、縄文人たちにとって味覚の1つであった。現代人の舌はなかなかうけつけないが、少量であればタケノコ、ワラビ、ゼンマイ、タラの芽などのように春の味覚の1つとしても喜ばれる。橡の実を扱う際に、泡が多く発生するのはサポニンのせいで、これは温水に容易に溶ける性質があるので数時間煮ることで取り除くことができる。また、タンニンの方は水溶性で、水に晒すことで徐々に抜け、ナラやカシの灰汁を併用することでさらに効果的にアク抜きを行うことができる。
 近くに谷や渓流があってきれいな流水を利用できればアク抜きの工程でだいぶ手間が省けるのだが、私の自宅では水道水しか利用できない。しかし、食い気に勝る私は、「葛の吉野晒し」のノウハウを応用して栃餅作りにチャレンジした。この手の伝統食作りは、経験値が大きくものをいう。以下に今回の課題を書き留めたが、今後への出発点としたい。

【課題】
○ 皮をむいたあと、できるだけ細かく粉砕しておいた方がアクはぬけやすい。
○ 橡の実を餅米と一緒に蒸らす時間をしっかりとらないと、餅をついた時に実がつぶれず片として残ってしまう。 指でつまんで潰れるかどうか確認するか、橡の実だけを別個に蒸らすのも一案である。
○ 木灰は多めに作って、Eの工程では灰に橡の実が隠れるくらいにたっぷりと使う。

   
@数日水につけたあと天日干し。しっかり乾燥させると何年でももつ。   A熱湯を注いで川を柔らかくする作業を4〜5日繰り返す。   B手製の皮むき器で、圧縮する要領で皮をむく。
   
C渋皮も取り除く必要があるので、結構骨の折れる作業。   D毎日水を変えて1〜2週間水晒し。きれいな川があればいいのだが。   Eカシやナラなどの灰をたっぷり入れ、熱湯をかけて数日間浸す。
   
Fアクが抜けたかどうか食べてみて確認。ダメな時はDやEを繰り返す。   Gもち米1.5升にトチの実500g。こしきで時間をかけて一緒に蒸す。   H粒が大きかったのと蒸し足らずで、ずいぶんトチの粒が残ってしまった。
アク抜きは経験が必要だが、餅の中に残ったほのかなエグミがやみつきとなる。