米と塩のみで魚を漬け込み、飯を発酵させて魚を長期保存する方法が「なれすし」の始まりである。「なれる」とは、醗酵していくことで、日が浅いうちは塩の味がきいているが、やがて、日が経つにつれて酸味を帯びていく。有名なのは琵琶湖の鮒寿司だが、和歌山北中部ではサバ、熊野ではサンマ、また、紀ノ川(吉野川)流域ではアユ、他にはタチウオ、アジを使うところもあるそうだ。後に、飯も一緒に食べるようになり、これが寿司の始まりとされている。
「歌舞伎や文楽の義経千本桜(すしやの段)」で登場する吉野弥助の鮎寿司も、この製法で作られたものだが、現在は、酢を使った押し寿司に代わっている。私たちが食べている多くの寿司は、酢を使って、発酵させたなれすしに似せたものをつくり食しているわけである。
和歌山では、後者の製法で作られた鯖寿司を、「なれすし」に対して「早すし」と読んでいる。和歌山ラーメンのお店に行くと、「早すし」はさらに一口サイズに整えられたものが置かれ、セルフサービスでお客さんの口に入っていく。
和歌山市本町にある弥助寿司では、昔ながらの製法で「なれすし」を作って販売しており、アセ(ダンチク)の葉で包まれている。漬ける日数も、お客様によって4〜5日くらいの物から1ヶ月以上の物を好む方もいるそうである。私がいただいたものは、結構漬け込んだ日数が長いのか酸味がきいていた。臭いはさほど気にならないのだが、人によっては食べる前に臭いに反応している。発酵によって飯粒が形を崩していき、残った芯の舌触りが、私は好きである。 |