Life in the wood
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  縄文ハンバーグをつくる  

縄文遺跡の「クッキー状炭化物」
 縄文時代の遺跡の出土品の中には、縄文クッキーや縄文ハンバーグと呼ばれている「クッキー状炭化物」があり、縄文人の食の一端をうかがい知ることができる。なかでも、山形県押出遺跡から出土したものをある学者が「クリ、クルミの粉に、シカやイノシシ、野鳥の肉、イノシシの骨髄と血液、さらに野鳥の卵を混ぜ食塩で調味し、野生酵母を加えて発酵させていた」と分析したが、これには異論も多い。しかし、縄文人は、狩猟によって得た動物の肉にドングリや木の実を混ぜ、円形や楕円形に整えて火で調理し食していたことは疑いないようである。

◆縄文人が食したドングリ
  「クッキー状炭化物」が出土している縄文遺跡は、なぜか中部〜東北地方に多い。となると、用いたドングリはブナ科の中でも落葉広葉樹のもので、アク抜きの必要のないクリやブナ、あるいはアクの比較的少ないミズナラやコナラ、ナラガシワなどをまず採集したのではないかと考える。(三内丸山遺跡では、クリの栽培をしていたことがDNA分析でわかっている。)
 一方、比較的温暖な西日本や太平洋沿岸では、ブナ科の常緑樹の中でもスダジイやツブラジイ(コジイ)、マテバシイ、イチイガシといった、これまたアク抜きせず食することのできるドングリを採集していたと考えられる。実際、福岡県久留米市の正福寺遺跡では、編み籠に入った大量のイチイガシが発見されている。また、ブナ科のドングリ以外にも、オニグルミやトチの実も貴重な食料で、オニグルミは現代人にとってもとても美味しい味覚であり、トチの実は、ついこの前まで、飢饉のときの非常食としてその木が大切にされていた。

◆“縄文ハンバーグ”のレシピ
 当時の縄文人が手に入れることのできた食材で、石器やたき火を用いながら、縄文クッキーの調理再現を試みるのも1つの趣向だが、今回は、現代人の味覚や調理方法に寄り添った形で、“縄文ハンバーグ”を作ってみた。

@木の実は、ツブラジイとスダジイを斧の平らな部分を使って叩き割り、コーヒー用の手回しミルを使って粉末に。
あと、オニグルミがあったので、金槌で叩き割って実を取り出し、こちらはすり鉢で粉末に。
A肉は、「牛と豚の合挽き」を用意したが、運よくシカとイノシシの肉が友だち経由で手に入ったので、こちらは包丁で細かく刻んで2つを混ぜ「シカとイノシシの合挽き」に。
同じドングリを用いながら、かたや平成人好みの「牛と豚」の肉で、もう一方は縄文人が好んでいたであろう「シカとイノシシ」の肉でと、2種類のハンバーグを作って味比べをしようと思った。
Bまず、2種類の合挽き肉をそれぞれ塩を適量かけてよく練り、そこへドングリとオニグルミの粉末、卵を混ぜ、隠し味にはちみつを数滴たらす。
次はよく練って、小判大に形を整える。
Cあとは、フライパンで焼くだけと思ったが、この際少しは縄文人に近づこうと土器焼きならぬ、陶板焼きにした。

@斧の腹でシイの殻を叩き割る A左)シカ肉 右)イノシシ肉 左上)オニグルミ 右上)ドングリ粉

Bこちらシカとイノシシの肉を練る C赤)シカとイノシシ 白)牛と豚 シカとシシ肉のハンバーグ

 さて、肝心の味の方だが、結論から言えば、意外や意外、「シカとイノシシ」ハンバーグに軍配が上がる。双方の肉の鮮度や部位にもよるだろうが、味付けは塩だけだったので、「シカとイノシシ」のほうに肉そのものの旨みが感じられた。「牛と豚」の方は、スーパーで買った合挽き肉だったので、もともとまずかったのかも。(笑)
 また、食べ終わった後、ドングリ特有の味覚が舌に残るのだが、これが縄文人気分を感じさせてくれる。オニグルミの実を入れたのは大正解で、クルミの油脂分とサクサクとした食感が、やみつきになりそう。台所で調理したとは言え、縄文人が手に入れえた食材と加熱方法だから、縄文人もけっこう美味しいものを食べていたんだなあ 。

※FENEK(三推社/講談社)2006年3月号&11月号に、このページの調理内容が取材記事として掲載されました。