Life in the wood
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  どんぐりとのアクなき戦い

マテバシイ(右)は全くえぐみが残らず超美味、アラカシ(左)はややえぐみが舌に残るがこれがまたくせとなる。

◆食べられないどんぐりはない
 どんぐりには、タンニンやサポニンなどのアクの強いものが多く、アクの少ないシイ類を除いて、そのまま食用にするには適さない。しかし、秋になるとデンプン質に富んだ堅果を大量に落とすため、ツキノワグマやリスなどの動物にとっては貴重な食料となっている。なかでも、ミズナラなどは極めてアクが強く、私 自身が食してみたところ、えぐくて喉さえ通らなかった。しかし、ツキノワグマは冬眠に備えてむしゃぼり食っている 。人間とクマとでは、胃の出来が違うのだろうか。ある実験によると、人間によって飼育されたネズミにどんぐりばかり与えると、そのタンニンが原因でやがて死んでしまったらしい。しかし、徐々にどんぐりの量を増やしていく方法だと、やがて、どんぐりのみでも生きながらえるに至った というから、動物も環境に適応させながら食料を獲得しているようだ。
 さて、私たち人間は、タンニンに胃をならすのでなく、アク そのものを取り除く知恵を身につけている。タンニンは水溶性で、水にさらすことでアクを取り除く術は、縄文人もその経験値をすでに持っていた。あちこちの遺跡で、どんぐりピットと呼ばれる貯蔵穴が見つかっており、穴に湧いてくる水を利用したらしい。アクさえ取り除けば、食べられないどんぐりはない、ということでアク抜きから始めてみよう。

  堅果の樹種名 特 徴
生食可 クリ 言うまでもなく、現代人も食用としている。
ブナ、イヌブナ 油脂分が多く「シイの実」よりも美味しいが、シイナ(空の実)が多く、中身の詰まったものを拾うのに一苦労。
ツブラジイ 、スダジイ いわゆる「シイの実」というのはこの2種で、戦前や戦後間もない頃には、これで空腹を満たした経験を持つ人も多い。炒って塩をまぶすとなお美味しい。
マテバシイ、シリブカガシ マテバシイの本来の自生地は九州などの暖かいところで、奈良県内などに見られるものは植栽されたもの。したがって、俗にいう「シイの実」ではない。生でかじってもほとんどアクは感じられないが、 粉っぽく「シイの実」ほど美味しくない。
生食不可 イチイガシ アクは少ない方だが、生のままでは現代人の舌は受け付けにくい。
上記以外すべて アクの強さに強弱はあるものの、アク抜きなしでは人ののどを通らない。 逆に、アク抜きさえすれば、すべて食べることができる。縄文時代の遺跡からは、アカガシやツクバネガシ、クヌギやアベマキ、コナラやイチイガシなどが貯蔵穴から見つかっている。

◆アクなき戦い
 葛根からアクを取り去り葛粉を作るには、古くから「吉野晒し」という方法がある。アクの主成分であるタンニンが水溶性である性質をいかし、冬の間、冷たい水を毎日取り替えながら2週間ほどかけてアクを取り去るのである。この方法が、大概のアク抜きに応用できる。トチの実はさらに一工夫が必要であるが、どんぐりは比較的容易である。

   
@左・マテバシイ、右・アラカシ   A皮をむく   B磨りつぶす
   
C毎日水を替えアク抜き
 (左・マテバシイ、右・アラカシ)
  D1週間たってもアラカシはまだアクが残っているので煮沸する   Eあとは天日で乾かす
 

◆どんぐりクッキー
 どんぐりクッキーにはたくさんのレシピがありそうだが、ここでは縄文時代にも手に入れることのできた食材にこだわり、縄文人の味覚を体感することにした。材料は、どんぐり粉とクルミとハチミツのみ。日本にはオニグルミが自生しており、実は小ぶりだが西洋クルミと何ら遜色ない味覚で、この油脂分がどんぐりのえぐみをまろやかにしてくれる。

   
@食材:どんぐり粉、クルミ、蜂蜜   Aハチミツに水少々加えて固める   B型をぬいてオーブンで焼く