日曜夜の9時のTVドラマ枠と言えば、TBS系列の『日曜劇場』がある。1956年12月に放送が開始され、60年以上の歴史を持つ最長寿ドラマ枠だそうである。近年では、「JIN-仁-」「半沢直樹」「華麗なる一族」など、大きな話題となった作品が思い出される。
その『日曜劇場』で、2024年10月から神木隆之介主演の「海に眠るダイヤモンド」が放送された。明治から昭和にかけて海底炭鉱で栄えた人口島端島がドラマの舞台で、日本初の鉄筋コンクリートの高層集合住宅が建てられ、1960年には人口5,267人、人口密度は83,600人/km2と世界一を誇った島である。その形容から「軍艦島」という名でも呼ばれていたが、石炭産業の衰退と共に、1974年に閉山した。ドラマは、1955年という端島全盛期の設定で、そこに暮らす労働者の人間模様や生まれ育った青年たちの掌いっぱいの夢が描かれている。ドラマ終了から1ヶ月。未だに、鉄平ロス・朝子ロスに彷徨う私だが、何がそんなに惹きつけられたのか考えてみた。
人は多かれ少なかれ、もういちど戻ってみたい時間がある。何かを確かめるために。あるいは、忘れ物を探すために。同窓会に顔を出して級友と再会したり、あるいは、思い出のその場所に辿り着いたとしても、それだけでは、願いは叶わない。なぜなら、あのときの時間を開く「鍵」がないから。
銀座食堂の看板娘朝子(杉咲花)は、大学を出て島に外勤として戻ってきた鉄平(神木隆之介)に、幼い頃から想いを寄せていた。きっかけは、鉄平扮するヒーローからもらった空き瓶の贈り物。そして、お互い年頃となった今、一緒に桜を見に行った。長崎の町でもデートのようなことをした。そして、ついに、鉄平からプロポーズのような言葉を確かにもらったのだ。しかし、鉄平は、突然何の連絡もなく島を飛び出し、朝子は置いてきぼりになった。鉄平からの連絡もなく、やがて、朝子は家族をもち、事業を成功させ、悠々自適の人生を送ってきたかのようにみえる。しかし、朝子には、ずっと確かめたいことがあった。忘れ物が未だ見つけられていないのだ。
やがて、彼女は「鍵」を手に入れる。鉄平が当時つけていた何冊もの「日記」だ。それを機に、時間はゆっくりと遡り、最終回、とうとう忘れ物に辿り着く。
鉄平は10年前に亡くなっていた。兄の事件で追われの身となった鉄平は、家族に危害が及ばぬよう、全国を転々とし、生涯独身で過ごした。彼が晩年暮らしていたという住居跡を訪ねた朝子。海に面した裏庭の向こうには端島を望むことができ、庭一面に植えられた色とりどりのコスモスが、朝子が来るの待っていたかのように咲き誇っていた。現実世界で、一緒に暮らすことは叶わなかったが、二人の間を結ぶコスモスの花に、彼の変わらぬ気持ちを確かめることができ、朝子は満たされた。
平均視聴率及び最終回の視聴率は、共に8.3%。『日曜劇場』にあっては、早々に打ち切られても仕方のないほどの低い視聴率である。20〜40代の人たちは、捜し物などせずまだ前を向いて歩んでいる世代。60〜70代の者には、まさに捜し物世代。若い人たちには、共感されにくいドラマだったのかもしれない。
そういう私にも、もういちど戻ってみたい時間がある。ただ、今なお「鍵」が見当たらない。 |