著名人のルーツを探りドキュメンタリー仕立てにした番組『ファミリーヒストリー』(NHK総合・毎週金曜午後10時〜放送)。芸能人の系譜にさほど興味はないものの、「森山良子〜日系2世の父
2つの祖国のはざまで〜」は最後まで見入ってしまった。
明治時代、森山良子の父方曽祖父は写真技師で、その師匠は坂本龍馬の写真で有名な上野彦馬。さらに祖父は、写真修業のためアメリカに渡った。一般人の渡米など、月旅行にでも行くような明治の時代にである。その後、アメリカ生まれの父は、戦前の日本に来て、2世ジャズマンとして活躍する。しかし、父は戦争中対米謀略放送に関わり、戦後の東京ローズ裁判に出廷することになる。こうして歴史のはざまに苦悩した父だが、これまで一切口を閉ざしてきた。一方、彼女の母方曽祖父は、郷土歴史家として書物も著し、森鴎外や松本清張と意外な結びつきを持っていたことも明らかになる。
「江戸っ子は三代続いて江戸生まれでなければならない」と言われるが、音楽界でも三代続かなければ第一人者になりえないなのだろうか。とまあこれは冗談として、私が興味を持ったのは、好奇心が強く行動的な家系であるということ。そして、日本における写真術創世記の時代に、上野彦馬に弟子入りした曽祖父、
さらに明治に渡米した祖父。もう一方の曽祖父は、天孫降臨の地高天原を故郷の山に重ね、それまでの定説に一石を投じている。
才能の貧富はともかく、大海に泳ぎ出る行動力も伴わないとその天賦は開花しない。以前に、引っ越しを繰り返す人は、その種のDNAが影響しているという話を聞いたことがある。こうした旺盛な好奇心や一見無謀とも思える行動力も、実はDNAの仕業ではないだろうか。森山良子の成功も、その才能とは別に、祖先から受け継いだDNAも幸いしていると考える。
私は、人生の勝負をかけるような場面に未だ出くわしていない。はたして、荒波の大海に挑むような行動力のDNAを受け継いでいるのだろうか。いやむしろ、そんな局面を回避する人生を歩んできたとも思われる。一か八か生死をかけて天下取りに挑むのも躍動感ある人生なら、生死をかける場面から遠いところで確実に生きながらえていくという知恵
もかけがえのないもの。後者のDNAは、私のファミリーヒストリーに幸いしていると言えるかもしれない。
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