この秋、『紅の豚』(宮崎駿監督)にはまった。ジブリ映画の長編は網羅してきたつもりだが、この映画が最後に残っていた。『紅の豚』は、宮崎駿監督の趣味である軍事関係の航空機を題材にした漫画『飛行艇時代』(模型雑誌『月刊モデルグラフィックス』>『宮崎駿の雑想ノート』※不定期連載>『飛行艇時代』)がアニメーション化されたものである。
時代は第一次世界大戦と第二次世界大戦の間で、舞台はアドリア海。主人公のポルコ・ロッソは、かつてイタリア空軍に属しアドリア海のエース・パイロットだった。しかし、多くの殺し合いを目のあたりにして嫌気をさしたが、当時のイタリア・ファシズム政権下では国の命令は絶対で従わなければならない。ならば「ファシストになるより豚のほうがましさ」「豚に国も法律もねえ」と、自ら魔法をかけて豚となった。その後は、空賊狩りの賞金稼ぎで飯を食っている。宮崎氏自身は、反戦映画だと言っている。ちなみに、「ポルコ・ロッソ」の名は空賊のつけたあだ名で、イタリア語で「紅い豚」の意味がある。
糸井重里の手によるキャッチコピーは「カッコイイとは、こういうことさ」とあるが、ポルコとジーナのやりとりは、映画『カサブランカ』を彷彿とさせるラブ・ストーリーでもある。とりわけジーナのセリフがいかしてる。
「私 いま賭けをしてるから ― 私がこの庭にいる時、その人が訪ねてきたら今度こそ愛そうって賭けしてるの。でも
そのバカ夜のお店にしか来ないわ。日差しの中へはちっとも出てこない」
「いくら心配してもあんたたち飛行艇乗りは、女を桟橋の金具くらいにしか考えてないんでしょ」
「ここではあなたのお国より、人生がもうちょっと複雑なの」
「マルコ、今にローストポークになっちゃうから。あたし嫌よ、そんなお葬式」
「ずるいひと、いつもそうするのね」
最後に二人の恋が成就したかどうか、フィオの思わせぶりな一言が流れる。
「ジーナさんの賭けがどうなったかは、私たちだけのひみつ」
その秘密は、エンディング・ロールの少し前、ホテル・アドリアーノの遠景が映ったとき、小さな赤い飛行艇をもって種明かしされている。 |