Guitar Case 88

Guitar Case > 2012

「高倉健」という生き方

 高倉建自身にとって6年ぶりとなる映画『あなたへ』が公開されている。81歳になった高倉にとって、長年の盟友降旗康男監督からのオファーも、「またこれ断ったら監督と、もうできなくなる年齢が来てるんじゃないかなと、2人とも。それはもう1本撮っておきたいよな」という理由で受けたと本人が語る。同じように、彼の映画に向き合う心の内側も、そろそろ語っておく必要があるかなと、この度NHKの密着取材を許可し、『プロフェッショナル仕事の流儀』という番組で放送された。

 彼は、映画俳優「高倉健」として生き抜くため、自分自身に課していることがいくつかある。
 まず1つ目は、いつでも映画出演できるよう肉体の管理である。何十年も変わらないというウェストを維持するため、例えば、朝食はナッツのたっぷり入ったシリアルにヨーグルトをかけたものときめ、大好きな甘い物も我慢し、夕食まで食べ物はほとんど口にしない。ウオーキングも欠かさず行うという。また、銀座へ飲みに出歩くこともない。数年に一度しか映画に出演しない高倉にとって、それらは日常ほとんどは人目に触れることのない習慣だ。
 2つ目、高倉が体調管理以上に心を砕くのが、気持ちを常に繊細
で、感じやすい状態に保っておくことである。そのためにふだんから、映画や小説、音楽、大好きな刀剣や美術品に触れ、時に海外に旅に出て、心をさらす。そうして、自分の感性に磨きをかけている。

 とりわけ、人に出会うことも大切にする。「どういう人に出会うか、人生でそこで決まるんじゃないですか。やっぱりいい人に出会うと、いろいろなものをもらいますよ」と続ける。自分が感じられるものを追いかける姿勢に、こんなエピソードもある。村田兆治の引退試合中継を見て感銘を受け、それまで面識も無かった村田の住所を関係者に一通り尋ねて調べ、さらに留守中だった村田の自宅前に、花束を置いて帰ったというのだ。
 3つ目、高倉は「俳優は私生活を見せてはいけない」という信念をもっている。同じことを、フーテンの寅さんを演じた渥美清も徹底して守り続けた。
 4つ目、「現場で座らない」という伝説がある。「全部武ちゃん(北野武)の作り話です」とうそぶくが、81才で臨んだ今回の映画現場でも、スタッフのそばにそっと立ち続ける姿が見られた。「居たい。そばに。なるべく居て見ていたいですね。鳥肌が立つ思いの時ありますよ。スタッフの、ぼくは狂気の集団と言ったけど、本当にあの人たちの努力ですよね。(中略)そういうのを分かるのに何十年もかかるよね。ぱっときても分からない」とその理由を述べる。

 このような俳優の「生き方」が芝居にもにじみ出る。ふだんどんな生活をしているか、どんな人とつきあっているか、何に感動し何に感謝をするか。そうした役者個人の生き方が、芝居に出るというのだ。さらに、「プロフェッショナルとは?」と聞かれて、「生業」ときっぱり答えた。私は、私の生業 のために、いったい何を課してきただろか。まだ、遅くはないかもしれない。

(追記)
 1つの作品を終えるたび、スクリーンから離れ、何年も人前から姿を消す高倉健の習わしがある。となると、あと何本も映画が撮れないかもしれない。私の希望を聞いてもらえるなら、あと一回でいいから、山田洋次監督との新作を見てみたい。

by くりんと

Guitar Case 87

Guitar Case > 2012

PINK MARTINI & SAORI YUKI  『1969』

 由紀さおりとジャズ・オーケストラ・グループPINK MARTINIとのコラボ・アルバム『1969』に、海外で火がついた。2011年11月2日付のiTunesジャズ・チャート及びカナダiTunesチャート・ワールドミュージックで は、第1位獲得という快挙も達成した。
 世界中で260万枚の売上実績を持つPINK MARTINIのリーダー トーマス・M・ローダーデールと由紀さおりとの出会いは、トーマスが偶然手にした由紀さおりのLPレコードを聴き、アルバム“Hey Eugene!”で「タ・ヤ・タン」をカバーしたことから。そのことを知った彼女は、猛ラブコール を送りアルバムの共作を実現した。
 このアルバムは「1969年に発表、またはその時代を象徴する名曲をカヴァーする」というコンセプトで、歌謡曲で 育った由紀

さおりが、KAYOU-KYOKUを世界に発信し、しかも日本語のまま打って出るというわ
けだ。かつて、多くのミュージシャンが世界に挑んだ 。しかし、歌謡曲で勝負したのは坂本九の『上を向いて歩こう』以来ではないだろうか。日本から一歩も外に出たことのない禅宗のお坊さんが、ローマ法皇と対等にわたり合うかの如く、これぞ真の“international”ではないかと 、私は手をたたいた。

 購入した『1969』はアメリカ盤で、日本発売のものと曲順が異なる。1曲目に、琴のアレンジの効いた『夕月』をもってきたのは、いかにも海外向けという選曲だが、日本盤の1曲目『ブルー・ライト・ヨコハマ』 というのも、買い手を意識した似たり寄ったりの媚かな。(笑)さて、私のお薦めは、日米盤共通の2曲目『真夜中のボサ・ノバ』とラスト2曲の『わすれたいのに』と『季節の足音』。ちなみに、彼女の代名詞『夜明けのスキャット』は、何十年か前の原曲の方がいい。
 『真夜中のボサ・ノバ』は、ヒデ&ロザンナが歌っていたことをあらためて知ったが、このアルバムの男性ヴォーカルのハモリがとても素敵だ。ヒデ&ロザンナのバージョンも、YouTubeで聞くことができ るが、あの二人の雰囲気あるデュエットも、その後は唯一無二だなあ。
 さて、『わすれたいのに』は、どれほどの方が知っている曲だろうか。もちろん私は初めて聞いた。あまりにも美しい曲なので、元歌 はと紐解いてみると、1969年当時、ニッポン放送の名番組「パンチ・パンチ・パンチ」のパーソナリティだった3人が、“モコ・ビーバー・オリーブ”というグループを組み発表した曲 だそうである。ちなみに洋楽のカヴァーである。こちらも素晴らしいコーラス曲で、由紀のものと聞き比べてみたい。 私にとってはお姉さんたちのあまいコーラスを、是非、リアルタイムで聞いてみたかったなあと、少し悔しい思いがした。ちなみに、オリーブこと本名シリア・ポールは、その後、大滝詠一のプロデュースで『夢で逢えたら』をリリースしており、こちらの方はご存知の方 も多いかもしれない。
 では、『季節の足音』はいったいだれの曲なのだろう、と興味津々であったが、ヴォーナス・トラックというクレジットがついてい た。つまり、こちらは作詞:秋元康、作曲:羽場仁志で、1969年作品ではなく由紀のための書下ろしである。 そんなことは置いておいて、この曲の詞に共鳴。嗚呼、秋元康の才能が憎い。

  季節の足音は 脈打つこの鼓動 人は何度 春夏秋冬 巡るのでしょう
  穏やかに時は過ぎ 今日も輝いて 一日が終わることを 感謝しています

 では、大人の“KAYOU-KYOKU”を、心ゆくまで聴いてください!

日本盤 海外盤

1. ブルー・ライト・ヨコハマ
2. 真夜中のボサ・ノバ
3. さらば夏の日
4. パフ
5. いいじゃないの幸せならば
6. 夕月
7. 夜明けのスキャット
8. マシュ・ケ・ナダ
9. イズ・ザット・オール・ゼア・イズ?
10. 私もあなたと泣いていい?
11. わすれたいのに
12. 季節の足音 (ボーナス・トラック)

1. Yuuzuki [Evening Moon]
2. Mayonaka No Bossa Nova [Midnight Bossa Nova]
3. Du Soleil Plein les Yeux [Eyes Full of Sun]
4. Puff, the Magic Dragon
5. Ii Janaino Shiawase Naraba [It's Okay If I'm Happy]
6. Blue Light Yokohama
7. Yoake No Scat [Melody for a New Dawn]
8. Mas Que Nada
9. Is That All There Is?
10. Watashi Mo Anata to Naite Ii? [Consolation]
11. Wasuretainoni [I Want to Forget You, But...]
12. Kismets No Ashioto [Footsteps of the Seasons]

by くりんと