Guitar Case 72

Guitar Case > 2008

おやじエンタテイメント「藤岡藤巻」

 今夏公開された宮崎駿監督の新作『崖の上のポニョ』の主題歌は、映画を見ていない人でも口ずさめるのではないだろうか。この曲を歌うのは、児童劇団所属の大橋のぞみ(8)と「藤岡藤巻」の特別ユニット。「藤岡藤巻」とは、藤岡孝章(55)と藤巻直哉(55)の男性デュオだ。

 この曲はもともとは大橋のぞみが一人で歌う予定で、そのデモテープを聴いた宮崎監督が「お父さんと娘がお風呂で一緒に歌っているようにしたい」と思いつき、藤巻直哉が仕事で仮歌を 入れてみたと言う。藤巻は、博報堂(のちに博報堂DYメディアパートナーズ)の社員で、業務で映画制作に携わることが多く、スタジオジブリの各作品にもクレジットされている。ちなみに、『もののけ姫』では声優としても活躍している。(セリフはサンが跳ぶシーンで「跳んだ」と5人ぐらいで言うところと、侍の役で「くそう、浅野のなんとか……」というところ。/藤岡藤巻公式HPより) あくまでも仮ということだったらしいが、宮崎監督と鈴木敏夫プロデューサーが「このままでいいんじゃないか。上手くないからいいんだ。」と言い出した。聴いた人が自分でも口ずさみたいと思う 宮崎のイメージに、藤巻の歌はちょうどいい下手さだったということだろうか。

 こうして突然の大ブレイクとなった中年男性の二人。 藤岡孝章の方は、ソニー・ミュージックエンタテインメントでディレクター、プロデューサーとして活躍し、シブがき隊、加藤和彦、宍戸留美他、40組以上のアーテストを手がけた後、現在はF2エンタティンメントを立ち上げているというから、こちらもただ者ではない。しかし、この「藤岡藤巻」という 二人組は、この企画のために結成されたデュオではなく、その活動歴からけっこう年季の入っているグループであることがわかる。
 まず彼らの学生時代に、尾崎純也氏を加えた3人で「まりちゃんズ」というバンドを結成、とあるフォークコンテストでスカウトを受け、1974年に『ブスにもブスの生き方がある』という衝撃的な歌でデビューしている。その後、 グループは活動休止となり、それぞれ先述の会社に就職するのだが、2003年「藤岡君と藤巻君」として活動開始。翌年、「藤岡藤巻」に改名し、2006年SME Recordsから『よろけた拍子に立ち上がれ!』で再びメジャー復帰する。

 「藤岡藤巻」が提唱する”おやじエンタティンメント”。「酒場で繰り返した上司の愚痴だって、ラップにの

せればエンタティンメントに変わる。カッコよくてもイイけれど、カッコ悪くたって構わない。だってエンタティンメントは楽しませたもの勝ちだから。歌に、映画に、舞台に、宇宙に! “おやじエンタティンメント”は、そんな活動に踏み出すおやじ達の前向きな言い訳であり、おやじ達の課外活動でもあるのです。」(藤岡藤巻公式HPより) そんな”おやじエンタティンメント”の延長線上に 、「藤岡藤巻」の活動があり、サラリーマンたちの心の叫びを歌っている。
 ここまでの紹介でも、けっこう興味深い経歴の二人だが、すでにリリースされている「藤岡藤巻T」「藤岡藤巻V」というアルバムがまた傑作だ。『娘よ』『息子よ』(T収録)では子どもたちにオヤジの 歩んだ人生訓を言い聞かせ、『「牛乳トイレットペーパー海苔」』(T収録)は妻へのささや



藤岡藤巻T

かな逆襲を試みる。そして、『オレはフォークが大嫌い』『オレはヘビメタが大嫌い』(V収録)など俺は○○が大嫌いのシリーズもの。さらに『夏はもらったぜ!』(V収録)で、 パワーあるオヤジを演じながら最後に息切れしてしまうというオチ。とりわけ、シングルカットもされている『オヤジの心に灯った小さな火』(V収録)では、里田まいとのデュエット にこぎつけたが、セクハラおやじの勘違いをコミカルに歌い描く。
 かわいい大橋のぞみちゃんと歌う『崖の上のポニョ 』でのイメージとは対極に位置する藤岡藤巻の“おやじエンタテイメント”。彼らのパフォーマンスに刺激を受け元気が出てきた私も、やはりオヤジへの現在進行形だろうか。


藤岡藤巻V


by くりんと

Guitar Case 71

Guitar Case > 2008

山本潤子『SONGS』

近年、実力派のヴォーカリストがカヴァーアルバムを出し、話題を呼んでいる。
平原綾香『From To』はこのページでも紹介したが、徳永英明の『VOCALIST』や槇原敬之の『Listen To The Music2』、山下久美子の『Duets』などがよく知られている。
そんな流れに乗ってかどうか、山本潤子が2007年6月6日発売
した『SONGS』をリリースした。
たまたまラジオから流れてきた、このアルバムの中の「サンキュ.」に耳が止まり、「空と君のあいだに」で買おうと衝動が走った。

山本潤子は、後に結婚する山本俊彦らと1969年フォークグループ「赤い鳥」を結成、「竹田の子守歌」や「翼を下さい」が大ヒットする。
1974年に解散した後は、旧メンバー3人と「ハイ・ファイ・セット」を結成、「フィーリングス」や「卒業写真」が代表曲となっている。
1992年の活動休止後は、ソロやユニットで活動を続けており、透明感のあるその歌声は、小田和正をして「稀代のボーカリスト」と呼ばしめている。
私的には、NHK-BSの番組で見た伊勢正三・鈴木康博とのユニット・コンサートが、ソロ後の真正面からの出会いで、そのハーモニーの美しさに、気になるミュージシャンの一人となった。

 1.サンキュ.
 2.CROSS ROAD
 3.恋の予感
 4.Missing
 5.ロビンソン
 6.桜坂
 7.空と君のあいだに
 8.最後の言い訳
 9.世界にひとつだけの花
10.一本桜 〜心根〜
11.翼をください
12.一本桜 ヴォカリーズ ヴァージョン


さて、このカヴァー・アルバムだが、先にも書いたとおり「空と君のあいだ」がイチオシである。
中島みゆきのヴォーカルが書道でいう「草書」なら、彼女の場合は「楷書」。
中島の良いも悪いもその毒気を、山本のヴォーカルですっかり浄化し、曲そのもののもつメロディの美しさと詞の豊かさが、ミネラルウォーターを飲むような喉越しのよさですんなりと入ってくる。
このように、「この曲って、こんなによかったんだ」と再認識した曲が多い。
「翼を下さい」が音楽の教科書に採用されたとひと頃話題を呼んだが、山本のヴォーカルはその教科書のような丁寧さと確かさで、聴く側に警戒心を与えずリラックスさせてくれる。

このアルバムを手に取り最初に気づいたのだが、先の平原綾香『From To』の中に収録されている曲と、「Missing」「桜坂」「翼を下さい」の3曲が重なっている。
平原の「行書」と山本の「楷書」、今一度味わい比べてみたし。


by くりんと

Guitar Case 70

Guitar Case > 2008

椿三十郎

 年末、森田芳光監督の『椿三十郎』(2007年)を見た。ご存知の通り、黒澤明監督作品(1962年)のリメイク版で、三船敏郎が演じた主役を、監督たっての希望 ということで織田裕二が努めている。
 感想の第一声は「やぁ〜、面白かった」。私の行った劇場の客層は、平日ということもあって中高年の女性が多かったが、そのおばさん方が空気も温まらぬうちから声を出して笑う。 「こ の映画はこんなにおかしかったかな?」と、数日後レンタルビデオで黒澤版を見たが、脚本はほぼ同じであった。映画の中の椿三十郎は、「柔と剛」を兼ね備えたリーダー 役であるが、三船 に比べて、織田の三十郎はかなり「柔」にシフトしている。そして、押入れ侍役の佐々木蔵之介、次席家老役の小林稔侍、三枚目役に徹したかつての2枚目スター風間杜夫、さらには睦田夫人役の中村玉緒にその娘役の鈴木杏と、笑いの脇役がしっかりと固め、客席のおばさん方の嗚咽まで誘う のだ。そうした側面から見れば、とても楽しい映画としてもう一度見たくなる。
 森田監督によると「三十郎に関しては、当時と現代のリーダー像の違いを出そうと演出した」と言う。「威圧的にぐいぐい引っ張っていく三船三十郎に対して、織田三十郎は若侍一人一人の個性に合わせて説得していく協調的なリーダーシップ を描 いた」とのことだ。しかし、私(1960年代生)から見れば、まだまだ三船の演じた三十郎の方についていきたい。「○○だぜぃ」と若侍に意見する際の口癖は、三船独特のドスの効いた言い回しであって、織田の台詞としては違和感を感じた。逆に、黒藤の懐刀を演じる豊川悦司の存在感は、仲代達矢に 全くひけをとらず、ヒール役側のリーダーとしては申し分ないだろう。

 さて、この映画は脚本そのものが面白くよく出来ている。山本周五郎原作の『日日平安』がベースで、『用心棒』の興行的成功から、 黒澤監督は主役を腕の立つ三十郎に置き換えて『椿三十 郎』としてシナリオ化したもだと聞く。この脚本の面白さは、むしろ森田監督によってより現代的なセンスに味付けされ増幅されている かもしれない。
 この映画の中で、 黒藤邸から助け出された睦田夫人が椿三十郎に向かって忠言する比較的長いやりとりがある。
 「助けられてこんなことを言うのはなんですが、すぐ人を切るのは悪い癖ですよ。」
 「貴方はなんだかギラギラし過ぎてますね。」
 「そう、抜き身みたいに。」
 「貴方は鞘のない刀みたいな人。よく切れます。」
 「でも、本当にいい刀は、鞘に入ってるもんですよ。」
未だ青臭さの残る三十郎と夫人との絶妙なバランスの上に成り立つ会話として、印象に残る。ただ、四十郎、五十郎になっては 、このやりとりに滑稽さが伴ってくる。 
 自分に言い聞かせたいワン・シーンでもある。


by くりんと