12月26日のNHKの番組「そして歌は誕生した(第11集)」で、丸山(三輪)明宏の「ヨイトマケの唄」が取り上げられた。
先に述べた、音楽評論家藤田正さんの著書『メッセージ・ソング』やその講演でも、この唄が紹介されている。
1965年(昭和40年)にヒットしたこの唄は、その後放送禁止歌になったこともあってか、私たちの世代では知る人も少ない。
こうした経歴を持つ唄が、『喝采』や『知床旅情』と並び賞してNHKが取り上げたことも驚きである。
ヨイトマケとは、昭和30年代ぐらいまではよく見られた、建築現場で地ならしをする力仕事で、おもに女性が携わったらしい。
男に混じって汗まみれ土まみれになって日銭を稼ぐ母によって、一人前に育てられたこの唄の主人公。
死んだ母を「母ちゃんの唄こそ世界一」とうたい、ダイナミックにストーリーが展開していく。
昭和20・30年代に見られた貧困・差別が、この歌の根底にあり、そこを正面から歌い上げたこの歌は、世界に通用するメッセージ・ソングといえる。
三輪明宏といえば、その外見から、私自身ほとんどよいイメージをもっていなかった。
しかし、彼の生い立ちやシャンソン歌手としての生き方を番組で知り、「ヨイトマケの唄」の強烈なメッセージを受け止めるなか、彼のあのスタイルも、1つのメッセージとさえ映るようになった。
失礼ながら、歌のうまさも本物で、その実力に裏付けられた歌詞なればこそ、聴くものをとらえるのだろう。(これは大いに見習わなくては。)
日本には、いい歌がたくさんある。
聞き手の、そのときの在り方によっては、どの歌も名曲になりうる。
しかし、「ヨイトマケの唄」のメッセージ性、丸山明宏の生き方、そしてその表現力を取って言うなら、これまで日本で生まれてきたあらゆる唄は、この唄の前に吹っ飛んでしまうことだろう。
作家なかにし礼氏のこの意見に、全く同感である。
(参考文献:『メッセージ・ソング』藤田正著・解放出版)
by くりんと
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