3月下旬、馬見丘陵公園で、サクラの木の下を通りかかると、スズメの群れに遭遇した。少し前までなら、気にも留めず通り過ぎるところだが、「あれっ、スズメらしくないスズメだなあ」と引っかかったのは、少しばかり目利きの腕が上がった証拠だろうか。この時出会ったスズメは、人間でいうと、垢抜けた都会的なセンスの感じられる装いだった。とりあえず、撮影に取りかかるが、小さくて動きが速く、数秒と一箇所に留まっていない。しかも、空を見あげるような角度で、ピントもままならない。こういう時は、野鳥の動きを予測して通過するであろうポイントにピントを合わせ、待ち伏せ攻撃するしかない。この場合、1秒間に何十枚という高速連写機能はありがたい。
さて帰宅後、撮影画像をパソコンでチェックすると、ピンぼけや構図の甘さなどで、まあまあ及第点のものは数枚しか残らなかった。いつものことである。図鑑を手に取り同定を始めると、あの垢抜けた感じの根拠が判明した。この鳥の頭部は、スズメに比べて、明るく赤い茶色であること。そして、頬は白く、スズメのような黒斑がない。馴染みの深いスズメに対して、「ニュウナイスズメ(入内雀)」というらしい。
和名の「入内雀」の意味について調べてみると、いくつかの諸説の中で、藤原実方の化身であるという話が面白かった。平安時代に陸奥守として東北地方に左遷され、現地で失意のまま死去した藤原実方。京都にその訃報が届くと、毎朝、京都の内裏の清涼殿へ1羽の雀が入り込み、台盤の飯をついばんであっという間に平らげてしまうという噂が広まった。内裏に侵入する雀であることから「入内雀」と呼び、実方の怨霊といって大いに恐れたという。ニュウナイスズメは、夏に東北地方を含む東日本の寒冷地で繁殖し、秋に全国に渡来して米など農作物に被害を与える。このことも、実方の怨霊が重ねられたというのだ。話としてはとても良くできている。
雄の頭部は赤茶色で、頬にスズメのような黒斑はない。
九州中部以北の積雪の多い地方で繁殖し、秋冬は、局地的に温暖地の農耕地や川原に群れですむ。 |