この鳥の名に漢字をあてると、「川蝉」「翡翠」「魚狗」「水狗」「魚虎」「魚師」などが挙げられる。これらの漢字表記から、カワセミの特徴を大きく2つに分けることができる。
まずは、「川蝉」「翡翠」グループ。カワセミは“渓流の宝石”と形容されるように、頭から翼、尾まで光沢のあるヒスイ色をしている。いや、実は宝石のヒスイはこの鳥の羽の色に由来して名付けられており、漢字で「翡翠」と書くと、「カワセミ」「ヒスイ」のどちらの読み方もできる。ただし、カワセミの羽は本来ヒスイ色ではなく、構造色といって光の波長以下の微細構造によって現れる発色現象から、青色に輝いているとされている。身近な構造色にはコンパクトディスクがあげられ、それ自身には色がついていないが、アルミ薄膜表面に刻まれた凹凸によって光を干渉するため、記録面側が虹色に見えるという理屈と同じである。また、自然界では、「生きた宝石」と呼ばれるモルフォチョウの鮮やかな青色の翅も、鱗粉表面に刻まれた格子状の構造による構造色である。水面下の小魚からすれば、水辺の小枝で待ち構えるカワセミも、その羽のヒスイ色が空の青さに重なって、その姿をとらえられないだろう。一方、「川蝉」のセミは、昆虫のセミとは関係がなく、「ソニ」が語源で「青土」という意味があるそうだ。
次に、「魚狗」「水狗」「魚虎」「魚師」グループ。カワセミの採餌行動は、よく知られたように水辺の石や枝の上から水中に飛び込んで、銛のような嘴で小魚を的確に捕えてくる。まさに、水上の狩人として、それらの漢字はあてられている。飛んでいる時は、水面近くを直線的にツバメ以上のスピードで飛ぶため、あの鮮やかなヒスイ色もなかなか目に止まらない。一方、餌場が見渡せる石や小枝の上では、いつも決まった場所で5分・10分と留まることも珍しくなく、また、繁殖期には雄が雌へ獲物をプレゼントする求愛給餌行動も見られるため、カメラをもった愛鳥家にとってはこの上ないターゲットとなる。私がよく行く公園にもカワセミが採餌する水場があり、三脚にカメラ、椅子までも持ち込んだ方々が、主役の出番今や遅しとよく待ち構えている。ここまでは微笑ましい光景だが、場所を変えると、撮影に適した場所に何本も止まり木を設置したり、わざわざ水たまりを作って餌となる小魚まで泳がせるという話も聞く。弓矢や銃をデジカメに持ち替えた男子は、その狩猟本能をこうした形で昇華しているのだろうか。
カワセミの仲間では最小で、体に比べて頭が大きく嘴が長い。背から上尾筒はコバルト色、胸から腹はオレンジ色と美しい。雄の嘴は上下とも黒いが、雌の下嘴は赤みがかっている。幼鳥は胸の色が鈍く黒ずんでいる(上画像)。
全国の池・湖沼・川等にすみ、多くは留鳥。 |