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広がるミヤコザサ草原

 

ブラウジングライン(正木ヶ原)

 大台ヶ原では二種類のササが見られる。背の高いのがスズタケ(イネ科)で、背の低いのがミヤコザサ<別名:イトザサ>(イネ科)。どちらもニホンジカの餌となるのだが、最近ではスズタケが後退しミヤコザサの草原が広がりつつある。スズタケの芽は、ニホンジカに捕食されると1年待たなければ生えてこないが、ミヤコザサの方は食べられてもすぐに次の芽が出てくる。東大台では、ミヤコザサの林床がニホンジカによってきれいに刈り取られ、かつそれらを覆う樹木の下枝が一定の高さでそろっていて、遠くまで見わたせる風景に出くわす。これはニホンジカが首を伸ばして枝葉を食べたことでできる空間で、「ブラウジングライン」と呼んでいる。
 ニホンジカは、森林と草原が混在する様な場所に生息する林縁性の動物である。見通しのいい草原は天敵の襲来をいち早く察知でき、いざとなれば林に隠れ潜むことができる。大台に広がりつつあるミヤコザサの草原は、まさにニホンジカの好環境で、この地に適した樹木の成長を阻みながら自らの生息地を広げていると考えてみると面白い。
 一方、西大台の林床にはミヤマシキミ(ミカン科)も多く見られ、ミヤコザサより優先している。ミカン科のこの植物はミカン特有の酸味があり、ニホンジカはアセビなどと同様に食べないらしい。

ミヤコザサ スズタケ

○地上部の寿命は1〜1.5年
○地際に冬芽をつける
(毎年すべてが生え替わる、使い捨て)
○シバの「被食戦略」に対して、ミヤコザサは「耐食戦略」
○ミヤコザサが採食を受けたときのダメージ
 ・小型化する(葉が小さい。)
 ・高密度化する(たくさんの棹を出す)
 ・反応が早い(次々と新しい棹や芽を出す)

○地上部の寿命は5〜6年
○棹の途中に冬芽をつける
(採食を受けたときのダメージが大きい)




【シカはなぜ樹皮を食べるのか】
ニホンジカによる剥皮は、大台ケ原の場合、樹種の選択性が見られる。広葉樹では、リョウブ(高)、フウリンウメモドキ(次)、ヒメシャラ、アオダモが多く、針葉樹では、ウラジロモミ、トウヒ、ヒノキとなっている。吉野地方の胃腸薬にキハダの樹皮などを煮詰めて作った「陀羅尼助」という丸薬があるが、シカがキハダの樹皮を食べた跡もある。こうした剥皮は、冬場の積雪期に行われるのかと思いきや、ミヤコザサなどの食糧が十分にある夏場にこそ多くみられる。では、なぜ剥皮を行うのだろうか。「質の高い夏季のミヤコザサを採食することによって引き起こされるルーメン胃(反芻動物の胃)内の異常発酵を、消化しにくい樹皮を採食することで緩和している」のではないかという仮説もある。すると、ミヤコザサを食べれば樹皮も合わせて食べなければならず、高木の枯れ死によって森林衰退を招く。結果としてミヤコザサ草原が拡大し、シカに都合のいい環境が広がる。シカは自ら快適な食環境を創造しているということになるが、どうだろう。
◇引用文献:『大台ケ原の自然誌―森の中のシカをめぐる生物間相互作用』柴田叡弌,日野輝明・編著

 

防鹿柵の中のミヤコザサこそ本来の姿(30〜80p) 
※外は10〜20p

  落葉広葉樹(キハダ)の剥皮跡
(西大台)