Field Guide
                         くりんとのフィールドノート

           
   
 渓流釣り解禁

中奥川(川上村)


 高校生の時から始めた渓流釣りも、20代〜30代の頃が一番夢中だったかな。ホームグラウンドの川迫川(天川村)に足繁く通った結果、その勲章はドライフライで仕留めた尺イワナ。あと、奈良県では希少なブラウン・トラウトやレインボー・トラウトを狙いに坂本ダム(下北山村)でキャップをはったり、サツキマスを求めて熊野川詣。県外では、黒部川(富山県)を何度も訪れイワナを探った。
 ところが、最近では年に数回程度と、ずいぶん川から足が遠のいた。どうやら私のエロスは、山野草や野鳥などに向いてしまったらしい。森の成り立ちに興味を持ち、森の声が 少しは聞こえるようになってからは、大台ヶ原に毎月登り、森林インストラクターの資格を有して自然観察ガイドのボランティアを行っている。ただ原点は、渓流釣りを通して自然と関わり始めたことにほかならない。 私の場合、渓流アングラーの発展型が森林インストラクターなのだ。
 

 今年の私の解禁日は4月下旬。まだヤマザクラが山肌を彩る季節に、テンカラ竿を取り出し、中奥川(川上村)へアウトバックを走らせた。朝寝坊し たため午前7時過ぎに目的地に近づいたが、林道が大小の土砂崩れでずいぶん荒れている。落石で道がふさがれた箇所で駐車したが、平日とあって先行者もおらず、好天気に上機嫌と 相まって竿を振り始めた。間もなく、私の巻いた毛針に15cm弱のアマゴが出てくるが、幼魚のためもちろんリリース。その後も調子よく、ここぞとレーザー照射したポイントからは、7割以上の確率でアマゴがヒットした。テンカラ竿からいくら遠ざかっていても、狩猟本能というものにはすぐにスイッチが入るものだ。

 ところが、過去の渓流釣りと異なるのは、まわりの背景がどんどん目に耳に入ってくること。例えば、「ここの岩は蒼色の大きな一枚岩だがチャートだな。この赤いのもチャートだ。この真っ白なのは石灰岩。吉野川のチャートの小石はここで生まれている ようだ」などと物知り顔。
 すると、黒い影が上流に向かって走る。いつもなら、魚が逃げてしまうではないかと腹を立てるのだが、「今のは、カワガラスかそれともミソサザイ?」やがて、「一ぃぴー、二ぃとく、三ぴー、四ぃなん、五いちい、ぶんぷく、ちくりん、ちゃん」の聞きなしが聞こえてきたので、ミソサザイと確信する。今度は「ゲェ〜ッ、ゲェ〜ッ」 という鳴き声。「これは簡単カケスだ。」すぐに2羽のカケスがその姿を見せた。今度は、目の覚めるような青色の鳥が落石防止ネットに捕まっているが、オオルリと 判明、有名人に会ったような感激を覚える。
 河岸には、クルミの大木。「オニグルミだと秋に実を拾いに来ることができるが、新芽が出たばかりなのでサワグルミとの区別がつかないなあ」こうした河岸は、増水によってたびたび攪乱されるため、育つ樹種が決まって いる。山野草では、タチツボスミレが花をつけていたが、渓流沿いに生息地を広げて攪乱に適応してきたため、葉は小さく花弁も流線型だ。ケイリュウタチツボスミレという名がついている。少し河岸から離れると、ウラジロガシの多いことに も気がついた。「おや、倒木の上にイワダレゴケ。大台ヶ原では、この苔が衰退してきて危機感を持っているのだが、こんなところにも育っているんだな」と 、とうとう苔までが愛おしくなってきた。
 岩の上には野鳥や動物の糞。「テンの高糞」といって、イタチの仲間はよく目立つところにポツンと糞をする習性がある。「この細さならイタチかな」

 こんな案配で、舞台の上の主役だけでなく、数々の脇役や小道具・大道具、その背景まで目に入ってくるものだから、なかなか前に進めない。「もう 3匹釣れたからこのへんでいいか」と、最近ずいぶん根気がなくなってきた。そんな折に鋭く竿先を絞り込んだのは、25cm強のまだサビの残るアマゴだった。この渕に少なくとも数年はとりついている家主のうちの1匹だろう。天然ものらしく、尾ビレは激流に坑がったかのように刀傷が勲章となっている。 さらに、口は大きく発達し、肉食系らしい顔つきだ。「今日はこれで納竿。でも、この1匹のせいで、また釣りを辞めることはできなくなったなあ」

 正直なところ、天然もののアユやアマゴ、イワナが手に入るのなら、釣りに行かず少々のお金を出してもよいと思っている。美味しく川魚を食べる調理のコツもずいぶん磨いてきたからだ。少し前までは、狩猟本能の心地よさを確認するという釣りだったが、今はむしろ、食べたいために釣りに出ている という節もある。この日は、フライ・フィッシャーマン特製「アマゴのムニエル」。うちの家族の場合、か細いアマゴの脇腹骨にとりついた白いわずかな身まで取り合い となる。調理法を紹介したページのリンクを掲載したので、是非お試しを。森の料理
 このように私の釣りは、ずいぶん様変わりしてきた。次は、梅雨の頃の釣行になるかな。


 > フライ・フィッシャーマン特製「イワナのムニエル」

 
 
   

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