Field Guide
                         くりんとのフィールドノート

           
   
 谷瀬の吊橋

 「奈良県十津川村には2つの日本一」というのが当村のキャッチコピー。その一つが「日本一広い村」で、もう一つは「日本一長い吊橋」というわけである。五條から国道168号線を車で南下し、天辻峠を越え1時間余りで十津川村上野地に到着する。上野地は十津川村の玄関口でもあり、その日本一の吊橋には週末 ともなると観光客で賑わう。

 この橋は昭和29年に完成、長さ297.7m高さ54mの、鉄線橋としては日本一の長さを誇るという。 橋の対岸が谷瀬という集落で、そこと国道168号線との間に架けられている。司馬遼太郎氏の『街道をゆく〜十津川街道〜』から抜粋すると、この橋を訪れた時のこんなくだりがある。
 「橋畔にたてふだがあり、昭和二十九年に八百万円の工費でできた旨、書かれている。この大吊橋の利用はむろん十津川郷ぜんたいというわけではない。谷瀬とその奥のひとびとにかぎられるために、そのあたりのひとびとが一戸あたり三十万円の負担金を出しあって架設した。当時の三十万円はよほどの大金だが、ともかくもこの山村で中世以来発達してきた独特の公の意識を知る上で多少の参考になる。」
 上代以来免租地だった十津川村の場合、自分たちが身銭を切って仲間ぜんたいの利益をはからねば、お上が面倒を見てくれないということで、「公」の意識がごく自然に発達したとも、氏は触れているが、十津川村民のその「公」の意識の象徴が、この谷瀬の吊橋ということになるのだろうか。

 いよいよ橋の入り口に立つと、なんとその床材が木製の板。しかも一枚一枚針金で固定されているだけで、板と板の間には数センチの隙間もみられ、50m下の川底がのぞいて見える。一歩一歩踏みしめるたびに浮いた板がきしみ、その幅は狭くて人が行きかうにはカニ歩きをせざるをえないスリル。初めてこの橋を渡る者にとっては、最初の数十メートルで足がすくんでしまう。何とか真ん中まで歩いたとしても、日本最長の橋、渡りきるにはここから先がまた長い。恐る恐る足下を覗けば、広い河原に熊野川。だれが書いたのだろうか、白い石を集めて作られた「交通安全」などの文字が見られる。何とか橋を渡りきると、そこには「つり橋茶屋」があり、渡橋証明書なるものを購入することもできる ので立ち寄ってみたい。私の同級生に谷瀬出身の方がいるのだが、地元の人はここをバイクで渡ると聞くから驚きだ。また、毎年84日には十津川太鼓倶楽部「鼓魂」による迫力満点の太鼓演奏がこの橋の上で行われ ている。

 さて、橋の袂には「望郷」というレストランがあり、吊橋の全景をガラスの向こうに見ることができる。おにぎりを高菜の漬物で包んだめはり寿司というが熊野川 流域の名物だが、そのめはり寿司をほおばりながら、これから渡ろうとする人たちの様子をうかがうのはどうでしょうか。(笑)

一度に20人以上は渡れないとの掲示  足下には熊野川  「交通安全」の石文字

レストラン「望郷」より吊橋を望む  めはり寿司定食  高菜を使ったピラフ
 
 
   

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