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石巻に立つということ

 イチローは1億円、孫社長は100億円の義援金。木村拓哉をはじめSMAPのメンバーは、“出張ビストロマップ”と称して東北の被災地を訪れ、あたたかい料理と共に元気もふるまっていた。阪神タイガースの金本選手や新井選手もユニホーム姿で駆けつけ、笑顔をふるまっていた。一方、私にできたことは、義援金をいつもよりは奮発して1000円札を取り出したぐらい。先に紹介した著名人と私とでは、財力も知名度も桁違いだが、日本がここ一番の時にできることって義援金ぐらいだろうか。ミュージシャンの端くれとして、チャリティーコンサートをという声もメンバーから一瞬発せられたが、葉加瀬太郎やオノ・ヨーコ、桑田圭祐のようなわけにわいかない。比べる相手が間違っているのだろうか。3月11日以降、ずっともやもやしていた。
 そんな時、同じバンド仲間のヘビメタ・ロッカーが、GW中に震災ボランティアに参加したということを耳にした。もちろんギターなどの楽器類は持たずに、作業着で石巻に立った。彼は熱い人間だ!私のように屁理屈をこねまわさず、とりあえず向かった。
 数か月遅れとなったが、私も石巻に立つことにした。震災ボランティアの募集に手を挙げた。現地では、墓地に積もった瓦礫の撤去と塩水をかぶった苗床の洗浄。いずれも手作業の人海戦術だが、全国から集まった若者たちと力を合わせていると、不思議と感動がこみあげてきた。私一人の力でできることは、瓦や柱などの瓦礫を墓石の隙間から拾い上げること、洗車ブラシで苗床を1枚1枚水洗いすることだが、みんなで取り掛かれば見た目にも作業がはかどっていく様を実感できた。「ほんとに微力だが、ひょっとすると復興の一役を担うことができるかもしれない」という心地よい疲労感だった。
 地元のボランティア受け入れ団体のあるリーダーは、「物見遊山で被災地へ来るなという人もいるが、私は物見遊山でもいいから来てこの現実を見てほしい。そして、帰ったら伝えてほしい。」とおっしゃっていた。行かなければわからない。そこに立たなければわからない。テレビから流れてくる情報は、流し手が編集したものであって、自分の目で確かめることから次の一歩が始まる。今、私も先のリーダーと全く同感である。
 私たちが住む奈良県でも、台風12号によって大水害がもたらされた。11月に入ってやっと、ライフラインが通じるようになったが、復興のめどは立っていない。被災地の状況やボランティアの受け入れ体制などは、東日本大震災の場合とずいぶん異なるので、同じような動き方はできない。しかし、少しでも早くその地に赴いて、現状を自分の目で把握し、被災地の方の話をこの耳でうかがいたいと思った。そこから次の動きが生まれてくる。
 2011年という年は、人智の「想定」というものを、自然はいとも簡単に覆えしてしまうということを教えてくれた。

by くりんと