Guitar Case 83

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Grooving(ノリ)の創造

 春は「霞か雲か」と歌われるが、私の場合、今年はすこぶる視界がいい。実は、長年のバンドの課題であったものに、解が見出されようとしている。
 少し前に、NHK-ETVで「スコラ/坂本龍一・音楽の学校」という番組が放映された。「バッハ編」「ジャズ編」と続くが、なかでも最後の「ドラムズ&ベース編」がとても 面白かった。坂本龍一氏が 聞き手となって、ドラムズには高橋幸宏氏、ベースには細野晴臣を迎える。言うまでもなく、3人は1980年前後に音楽シーンを席捲した元YMO
(Yellow Magic Orchestra)のメンバーだ。テーマは、ダンス・ミュージックなんかの大切な要素「ノリ(=Grooving)」をどうやって作り出すかという、この一点。
 実は、私たちエンヤトット一座も、最近、“ノリ”の生みの苦しみにあえいでいた。 「いい趣味をお持ちですねえ」の宴会芸からとっくの昔に卒業したはずだが、次の山が乗り越えられない。バンドコンテストなんかでも、「個性的ですね」の評価から抜け出せない。「下手だからもっと練習を」と気合を入れるが、具体的な登山口やルートが見出せないから練習にも身が入らない。挙句の果て、お互いの所為にしだし、喧嘩腰のムードも漂っていた。
 そんな時、目に耳に飛び込んできたのがYMOの「Grooving論」。僕たちが喘いでいたのは、この一言に尽きた。 “ノリ”だ。 この“ノリ”ということに、全く意識がないわけではなかった。意識はあったが、メンバー共通の理論を、言葉を、尺度を、モデルを、師匠を持ち得なかった。

 そもそもYMOも、今から30年前に“ノリ”という数式を解いていた。“ノリ”は世代間でも、国籍間でも異なるという。それぞれがすでに第一線のプロ・ミュージシャンであった彼らでさえ、それは難解な問であったという。そして、コンピューターの導入と共に、“ノリ”の数値化を試み、その可視化に成功したのだ。例えば、沖縄音楽のリズムは12:12の2拍ではなく、「14:10の2拍」という黄金比の発見だ。
 一方で、彼らの演奏スタイルは、全く逆のことを試みた。“ノリ”を一切排除したリズムによる音楽「テクノ・ポップ」だ。YMOと言えば、当時珍しかったシンセサイダーを駆使し、世界に打って出て初めて成功したメイド・イン・ジャパンのミュージシャンという印象だった。そのファッションも奇抜で話題を呼び、当時大学生だった私も、テクノ・カットでキャンパスを闊歩していたのだが、彼らは30年も前に、奇しくも今私たちが抱える“ノリ”という課題を解き、一方で“ノリ”のない音楽を試みていたとは、当時、夢にも思わなかった。

 さて、“ノリ”を創る楽器の中心は、ドラムズ&ベースである。好きなミュージシャンたちが、どのようなテクニックやリズムで“ノリ”を創造しようとしているのか、先日から、そんなCDの聴き方をするようになった。これまで何百回と聴きなれた曲も、とても新鮮である。視界が晴れてきたといっても、登山はこれからだが、今後のエンヤトット一座を期待しておいてほしい。

by くりんと