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宮崎駿『風の帰る場所』

渋谷陽一氏による映画監督宮崎駿への12年間にわたるインタビューをノーカットで収録された『風の帰る場所』を読んだ。
『となりのトトロ』や『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』といった作品がどういった土壌から生まれてきたのか、作者本人の言葉で知ることができる。
さて、その中でも宮崎駿御自身のエンターテイメント論が非常に興味深かったので、以下に引用したい。

―映画を作る拠り所は?
「自分が善良な人間だから善良な映画を作るんじゃないですよね。自分がくだらない人間だと思っているから()、善良な人間が出てくる映画を作りたいと思うんです」
「やっぱり人間みんな同じだよって言うんじゃなくてね、その善良なこととかですね、それから、やっぱりこれはあっていいことだとか、優れてる人がいるんじゃないかとか、自分の中じゃなくても、どっかにそういうものがあるんじゃないかとい思う気持ちがなかったら、とても映画を作れないわけですよ」
「それは、例えば、子供がある肯定的なものに作品の中で出会ったときに、こんな人いないよとか、こんな先生いないよとか、こんな親いないよって言っても、そのときに『いないよね』って一緒に言うんじゃなくて、『不幸にして君は出会ってないだけで、どこかにいるに違いない』って僕は思うんですよ。なぜ思うんだかよくわからないんですけどね。それは1941年生まれのせいだとかね()、いろんなことでそんなイデオロギー暴露する人がいますけども。でも、やっぱり僕は自分がくだらなくても、くだらなくない人はいると思ってますから。だから、そこを拠り所にして映画を作ってますけどね」

―エンターテイメントの理想は?
「観終わった時に、実に『ああ、映画を観た!』って言うような()、そういう映画を作りたいですね。なんか本当にそれだけですよ。『ああ、お金を払って得した』とか『観に来てよかった』って言うような」
「ええそうです。そうだと思いますよ。それはつまりね、娯楽という言葉意味するところにもよるんだけど、『娯楽でいいんだよ、映画は』っていうのは嫌いです。でも、エンターテイメントって言うことを否定する気は全然ないです。エンターテイメントっていうのは何かって言ったら、間口が広いことですよ。敷居が低くて、だれでも入れるんですよ、入ろうと思えば。やっぱり(アンドレイ・)タコフスキーのやつなんて初めから入り口は狭いですよ。そう思うでしょう?」
「『誰でも入ってください』でやってないですよ。だけど、僕がチャップリンの映画が一番好きなのは、なんか間口が広いんだけど、入っていくうちにいつの間にか階段を昇っちゃうんですよね。なんかこう妙に清められた気持ちになったりね()。なんか厳粛な気持ちになったりね。するでしょう?」
「あれが僕は、やっぱりエンターテイメントの理想じゃないかと思うんです。あのー、特定の名前を出して、しょっちゅう問題を起こすんですけど・・・」
「あの、ディズニー作品で一番嫌なのは、僕は入り口と出口が同じだと思うんですよね。なんか『ああ、楽しかったな』って出てくるんですよ。入り口と同じように出口も敷居が低くて、同じように間口が広いんです」
「ディズニーのヒューマニズムの、あの偽者加減とかね、ああいうもんの作りものくささみたいなのがね。だから、やっぱりディズニーの最高の仕事というのはディズニーランドだったんだなっていうふうに思います。やっぱり好きじゃないですね。エンターテイメントっていうのは、観ているうちになんかいつの間にかこう壁が狭くなっててね、立ち止まって『うーん』って考えてね、『そうか、僕はこれで駄目だ』とかね()、そういうふうなのが理想だと思うんです。なんかこう・・・入り口の間口が広くて、敷居も低いんだけど、入っていったら出口がちょっと高くなってたっていう。壮絶に高くなることは無理ですよ、それは」

 ―宮崎駿映画には約束事が?
「でもねえ、それは例えば文楽を観に行ってね、突然くるっと太夫が席ごと回転して出てきて「うぎゃーあっ」とうなった途端にね、異世界へ入っちゃいますよ。文楽の約束事なんですよ」
「だって、そういうもんでしょう。音楽だって最初の音が鳴った途端にね、ふっとそっちに行くんでね」

ビートルズの音楽も、「ジャ〜ン」と鳴った最初の音でビートルズ・サウンドの世界に引きずり込まれ、初期の頃のアイドル的なバンドという「間口の広さ」から、中期以降のサージェント・ペッパーに代表されるような「出口の高さ」へと、いつの間にか導いてくれていた。
音楽(や芸術)をやる拠り所は、人それぞれだと思うが、いつの間にか見失ってしまった(どこかにしまいこんでしまった)ミュージシャンやアーティストも多い。
私たちはさしずめ、「ジャ〜ン」から。


by くりんと